[2021.09.08]
企業にとって何よりも大切である従業員という存在、その定着率を高めるポイントの1つが、福利厚生の充実度にあるといわれています。これは企業に当然備えられるべき法定福利ではなく、それにプラスした独自の福利厚生のことです。
この記事では、調査機関が行ったアンケートをもとに、従業員にとってあると嬉しい福利厚生について解説します。従業員が定着しないことに悩む前に、どうしたら優れた従業員が働き続けてくれるのか、その具体的な対策について考えてみましょう。
調査結果を解説する前に、基礎知識として福利厚生の仕組みについてまとめておきましょう。まず企業の福利厚生には、大別して「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」との2種類があります。
法定福利厚生とは、健康保険・厚生年金保険・介護保険のように、従業員を雇用する企業が法律により義務付けられているものです。正社員、パート・アルバイトによって違いはありますが、企業は従業員の健康と労働環境を守るため、必ず福利厚生制度を備えなければなりません。
一方の法定外福利厚生とは、従業員の職場環境を良くすると同時に、勤労意欲を高めるために各企業が独自に提供する手当やサービスのことです。詳細はこの後で述べますが、住宅手当や交通費などのよく知られたものから、最近では旅行やレジャーなどの娯楽に関わるものまで、実に幅広い種類の福利厚生が登場しています。
総合人材サービスのマンパワーグループは、労働年齢層である18~60歳の男女に対して、「会社の福利厚生として良いと思うもの」というアンケートを行いました。その調査結果をもとに、現代のビジネスパーソンが、企業に何を求めているのかを検証してみます。
参考:マンパワーグループ・アンケート調査
福利厚生に関するアンケート結果では「経済的負担を減らしてくれる」ものが人気
では実際にマンパワーグループが行った「会社の福利厚生として良いと思うものは何ですか?」のアンケート結果では、どのような福利厚生があると嬉しいと考えられていたのか、上位10位までのランキングを並べてみましょう。
アンケートは複数回答形式で、トップ3の回答率は1位が48.3%、2位が33.9%で3位が33.0%でした。堅実に衣食住と健康に関する項目が並び、多くの人が生活するうえで基本的に必要なことへの補助を希望していることが分かります。
それ以外には、自己啓発のための資格取得に関する項目が6位、娯楽に関しては7位というように、現在の暮らしにプラスαになることは、それほど望まれてはいません。従業員は全体的に今の生活の中において、経済的な負担を減らしてくれる福利厚生を求めているようです。
欧米では、日本人が思いつかないような変わった福利厚生や、想像を上回るほど手厚い福利厚生を実施している企業があります。その影響は日本にも及んでいて、近年国内企業の福利厚生も層の厚さを増してきました。ここでは、その中から3つを選んで、具体的な内容を紹介しましょう。
給与前払いサービス
福利厚生の中でも最先端のサービスと言えるのが、ジョブペイが提供する給与前払いサービスです。利用企業の社員がこのサービスを使うと、複雑な手続きなしで給料日前に給料を受け取ることができます。
ジョブペイの給与前払いとは画期的なシステムで、雇用主の企業が従業員の銀行口座に振り込みをしなくても、資金移動業者を介することで、従業員は直接ATMから給与の受け取りが可能です。法令を遵守した安全なサービスなので、上場企業でも多数の採用事例があります。
また企業にとっては、今までの福利厚生とは違ったメリットも生まれます。それは、給与前払いサービスを導入することで、求人募集に「日払い対応」の表記ができるようになり、求職者の応募数が増加することで採用コストが軽減できるという点です。人材不足で非正規雇用が増加するなか、このメリットは非常に有利だといえるでしょう。
初期導入コストもかからず、金融機関との複雑な契約も不要で、毎月のランニングコストだけで利用できる点も魅力です。今後のデジタルマネー拡大と、さまざまな決済サービスとの連携などを考えると、企業にとっても従業員にとってもあると嬉しい福利厚生ではないでしょうか。
福利厚生代行サービス
一企業だけで幅広い福利厚生を提供することは難しいかもしれません。しかし多くの企業が集まってサービスを構築できれば、もっと福利厚生を充実させられる可能性があります。そんな発想からスタートしたのが、それぞれの企業に代わって福利厚生を提供する新しいサービスです。
サービスの中心になっているのは、旅行やレジャー、食事や娯楽に関する施設の割引サービスから、健康管理のサポート、さらにネットショップでの購入特典などになります。生活そのものに関わる福利厚生よりも、生活をより豊かにするサービスが多いことが特徴です。
この分野には現在大手企業も参入しているため、サービスの内容は福利厚生のイメージを変えるほど多種多様です。しかもコストパフォーマンスにも優れているので、中小企業にとっても利用しやすいといえるでしょう。
参考:NTTビジネスアソシエ東日本「アソシエ俱楽部」
資格取得・研修・セミナーなど自己啓発に関連するもの
従業員にとっては仕事をしながら新しいことを学べるという利点があり、企業にとっては人材育成へ繋がるメリットがあるのが、自己啓発に関連する福利厚生です。目的は従業員の業務スキルを高めることなので、資格取得、研修やセミナーへの参加、eラーニングや通信教育の利用などを企業がサポートすることが多く、企業全体の業務能力アップにもつながります。
費用負担の面で不安がある場合には、「自己啓発助成給付金」のように、公的機関による補助金・助成金を検討してみてもよいでしょう。また、前述した福利厚生代行サービスでも、自己啓発に関連するサポートを受けることは可能です。
参考:国税庁「自己啓発助成給付金制度」
ここまで見てきたように、現在は既存の福利厚生の枠を越えて、さまざまなサービスを受けられるようになってきました。では実際に提供される立場からすると、どのような福利厚生が役に立っているのでしょうか。再びマンパワーグループのアンケート結果をもとに、福利厚生の実状と今後について分析してみましょう。
実際に利用されている福利厚生TOP10
ここでは、「会社の福利厚生として良いと思うものは何ですか?」と同時に集計された、「実際にあった福利厚生でよかったものアンケート」を紹介します。トップ10は以下の通りです。
実際にあってよかったものになると、3位と6位の項目のように、娯楽を求める内容の福利厚生が上位に入っています。4位と7位の項目などでは、長期的に将来に備えるサービスへの関心の高さが見てとれます。
「あると嬉しい」アンケートでは、生活に直結する福利厚生がトップ10で目立っていましたが、「あってよかった」アンケートになると、そこに生活の質を高めるプラスαのサービスが入ってきているようです。どちらもトップ2は同じでしたが、それ以外の項目になると微妙に異なる興味深い結果となりました。
人気の福利厚生とその内容について
いずれのアンケート結果を見ても、トップ2は住居関連と食事関連の福利厚生が占めています。やはり生活のベースになる部分で補助が得られることは、企業で働き続ける従業員にとって重要なことであり、企業にとっては必須の福利厚生といえるでしょう。
住居関連は家賃補助・住宅手当・住宅ローンの返済補助
一般的に住居関連で補助されているのは、家族がいる従業員の場合、家賃補助としての住宅手当や住宅ローンの返済補助などです。独身の従業員の場合は、社宅や寮という選択肢もあります。もちろん福利厚生なので、補助額の上限は決められています。
食費関連は社員食堂をはじめデリバリー等も
食事関連では、ある程度の規模の企業では社員食堂が代表的であり、他にも昼食1回分の一部を企業側が補助するケースもあります。また福利厚生代行サービスのように、外部のアウトソーシング・サービスに依頼して食事の提供を受けるという方法もあります。
定期健康診断以外の健康管理サポートも近年注目されている
もう1つ近年注目されている福利厚生が、定期健康診断以外の健康管理サポートです。アンケートにも人間ドックとあったように、法定福利厚生では対象にならない健康診断や、メタボチェックから食生活指導など、従業員の健康を企業が積極的に管理する姿勢が求められています。
こうした健康管理は企業の健全な経営のためにも非常に重要で、従業員の肉体的な健康状態を把握するのみならず、ストレスや精神的な悩みまでチェックして、場合によっては改善までをサポートすることが、今後の企業経営には必要になるでしょう。
そもそも、なぜ福利厚生の充実が注目されているのでしょうか。その理由として考えられるのは、従業員よりも企業の経営戦略上での重要性かもしれません。同時に現在の慢性的な人材不足も影響しているでしょう。
求職者は企業の求人募集を見る時に、給料や勤務形態などの基本的な情報以外にも、福利厚生の充実度や職場環境など、さまざまな要素を他の企業と比較しながら検討します。つまり求人募集における福利厚生の価値が、今までよりも高くなっているわけです。
さらに人材確保だけではなく、現在働いている従業員の定着を強化する目的でも、福利厚生の果たす役割が高まってきたといえるでしょう。収入の他に福利厚生が充実していれば、従業員のモチベーションは高まり、安心して職務に従事することができます。
その結果組織力、経営能力、業務効率などがアップして、企業としての価値を高めることにもつながるはずです。また最近では、企業がどれだけ従業員を大切に扱っているか、ということも企業の社会的信用度を高める指標になっています。福利厚生を充実させることは、従業員と企業との両方にとってプラスになるのです。
福利厚生に関わるコストを軽減したい場合には、公的機関による補助金や助成金制度を上手に活用するとよいでしょう。一般企業が利用できる制度はさまざまですが、その中から福利厚生の充実に利用できる制度をいくつか紹介します。
離職率の低下に取り組む企業が対象になるのが、厚生労働省の「人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)」です。助成額は57万円で、諸手当や研修制度の導入補助として利用可能です。
育児や介護が必要な従業員をサポートする企業に対して、助成金を支給する制度が「両立支援等助成金」です。やはり厚生労働省が主体となっており、助成額はコースによって異なりますが、ほぼ28.5~57万円の範囲内です。
もう1つは人材育成や自己啓発に関するもので、このタイプの制度は厚生労働省の管轄で、先に紹介した「自己啓発助成給付金」をはじめ、「人材開発支援助成金」など、非常に多くの種類が設けられているので、1度詳細に検討してみるとよいでしょう。
補助金や助成金制度を利用するには、準備から申請手続きに手間と時間がかかることがあります。それでも借入金と違って返済の義務がないので、特に中小企業にとっては福利厚生拡充のための強い味方になるかもしれません。
参考:厚生労働省「人材確保等支援助成金」 厚生労働省「両立支援等助成金のご案内」
以前は福利厚生の種類が限られていて、交通費や住居費の一部補助といった、極めて基本的なサービスしか準備されていませんでした。しかし現在、企業と従業員を取り巻く環境は大きく変化して、優れた人材を集めて職場に定着させるためには、福利厚生の充実度が欠かせない条件になりました。
今後も企業にとって福利厚生の拡充は、経営戦略の一部として一層重要なポイントになるでしょう。それと同時にコストの面も考慮して、福利厚生代行サービスを利用したり、補助金・助成金の活用を検討したりするなど、効率的な企業運営がますます求められることになるかもしれません。