[2021.04.15]
給与前払いを社内の福利厚生として導入する際、外部の給与前払いサービスの利用がおすすめです。複雑な手続きを自社内で行う必要がなく、従業員にとっても利便性が高まります。
しかし、給与前払いサービスの業者の中には、違法性が疑われる業者もあることを耳にしたことがある人もいるでしょう。業者と提携する際は、給与前払いサービスの内容についてよく理解し、法的に問題ないことを確認しておくことが大切です。
今回は給与前払いサービスについて、違法性・適法性の見分け方やサービスを見極めるポイントについて説明していきます。
給与前払いサービスが広まってきたのは、ここ数年ほどのことです。それ以前までは、給与前払いサービスはなく、企業では従業員からの申請に基づいて個別に前払いに対応することが稀にある程度でした。
では、何を背景に給与前払いサービスが誕生したのか、どのような仕組みでサービスが提供されているのか解説していきます。
1.1給与前払いサービスが生まれた背景
給与前払いサービスが生まれた背景としては、非正規労働者が増えたことや働き方の多様化などが起因していると考えられます。パートやアルバイトなどの雇用形態で働いている人は、勤務時間が短いこともあり、正社員の人と比べると貯蓄があまり多くありません。そのため、冠婚葬祭や度重なる飲み会、イベントなど、貯蓄では賄えなくなることもあるでしょう。
そのようなときに、給料日よりも前に給与の一部を前払いできればいいという声があったことがサービス誕生の背景の1つです。
給与前払い制度がない場合、知人からお金を借りたり、カードローンを利用したりなど、お金を工面することになります。しかし、カードローンは、利用している人のうち2割~3割程度は、できれば利用したくないと考えております。いわゆる借金ですので、利息も高く返済の負担が大きいと感じている方も多くいます。銀行や消費者金融から借金をすることに対して抵抗を感じる人もいるでしょう。
その点、給与前払いサービスは、自分が働いた分の給料を少し早めに受け取る仕組みであり、借金ではないため安心して利用できます。
また、企業の人手不足が深刻化も背景の一つです。求人の募集をしても必要な人員を確保できない企業が数多くあります。働く人にとって魅力のある福利厚生を導入し、自社で働くことの良さを知ってもらう必要があります。
そこで、人手不足に悩む企業が給与前払い制度を福利厚生として導入する動きが注目されています。
しかし、給与を前払いする際にはそれに伴う事務処理も必要です。総務や経理の負担も大きく、企業内で行うための障壁も多いためそのような負担を軽減できる給与前払いサービスが普及し始めました。
1.2給与前払いサービスの仕組み
給与前払いサービスは、一般的に預託型と立替型の2種類に分けられます。
預託型は、前払いに使用する資金を企業があらかじめサービス提供会社に預けておき、それを原資にから従業員に前払いを行う仕組みです。
立替型はサービス提供会社が、提携企業に対してお金を立て替えるという形で、従業員に前払いを行います。
いずれの方法も給与前払いをする際に必要な手続きや事務処理などを提携企業に任せることができます。手数料の形態サービス提供会社によって異なりますが、利用金額や回数を基準に、従業員・企業が負担することが多数です。サービスの導入時には、指定された銀行の(法人)口座の開設が必要な場合もあります。
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給与の前払いサービスでは立替型と預託型の両方で法的な問題点が指摘されています。
どちらのタイプも違法なのではないかと疑う人がいるかもしれません。それでは、どのような点が問題となるのか見ていきましょう。
2.1立て替えると借金扱い?
立替型の給与前払いサービスにおいては、従業員に対して給与を前払いする時点で、企業側は実際に資金を支出していません。後日まとめてサービス提供会社に対して精算するという形をがほとんどです。
そのため、サービス提供会社が提携企業に対して、「お金を貸している」=「貸金にあたる」可能性が指摘されています。業務としてお金を貸す場合は貸金業登録が必要とされていることから、貸金業登録を行なっていない給与前払いサービスは、法的に問題があると指摘されています。
提携企業に対してではなく、従業員に対する貸付だとして問題視されることも多くあります。給料日よりも前にお金を受け取り、給料日に精算するという仕組みから、従業員がお金を借りているようにも見えてしまいます。さらに、給与と相殺することで返済しているという解釈もできてしまう可能性があります。
給与の前払いサービスでは、手数料がかかるところが多いため、借金として扱えば手数料は利息に相当すると解釈されてしまいます。この場合、手数料を年利換算すると、上限金利である15~20%/年を超えてしまうサービスも多くあり、問題視されることもあります。
2.2資格がないと違法?
預託型の場合、銀行以外の業者が提携企業から預かったお金を従業員に支払うという点で法的な問題が指摘されています。他人からお金を預かり、別の人に支払うことは、為替取引に該当するため基本的に銀行しか行うことができません。
銀行以外の業者が他人の資金を預かって決済などを行うことを業として行なっていれば違法扱いになる可能性があります。ただし、金額が100万円以下であれば、「資金移動業」の資格を保有することで取り扱うことが可能です。
立替型の給与前払いサービスで指摘されている問題点について、金融庁では違法ではないとの見解を示しました。
まず、貸付に該当するかどうかは、外形的なことだけでなく実態を考慮して判断するべきとしています。そのうえで、給与前払いサービスは貸付としての実態がなかったということでした。
貸付を行う際は、相手の信用力を調査することが一般的ですが、給与前払いでは信用力調査は行われていません。
また、資金の借入は通常なら支払い能力を補完するために行われます。しかし、提携企業の給与を前払いするための資金が足りずサービスを利用しているわけではありません。自社内での手続きの簡素化やキャッシュフローを維持するためなどに利用しています。このことから、立替型の給与前払いサービスは、提携企業に対する借入には該当しないと判断されました。
さらに、給与前払いサービスを利用する従業員に対しても信用調査は行われていません。前払いできるのは既往の労働分のみで、まだ働いていない分の給与は前払いの対象外です。このことから、従業員に対しても貸付の実態は認められないということでした。給与前払いサービスは複数の行政機関の管轄にまたがるため、行政機関によって見解の違いが見受けられることもあります。
例えば、預託型の場合は基本的に資金移動業者としての登録が必要です。しかし、資金移動業の登録をしていない業者でも、従業員から手数料をとっていないことで、厚生労働省から問題ないという見解を示された業者もあります。資格がないと必ずしも違法というわけではありません。
他にも手数料をとっている業者で経済産業省のグレーゾーン解消制度を利用して正当性を主張している業者もあります。しかし、この業者に関しては厚生労働省が金融庁とは異なる見解を示している状態です。グレーゾーン解消制度を利用した場合においても、適法か違法かを判断することが難しい場合があります。
給与前払いサービスを導入する際は、安心して利用できる業者かどうかきちんと見極めることが大切です。以下、3つのポイントをチェックしましょう。
4.1必要な免許を保有しているか
給与前払いサービスの提供会社が保有している免許についてチェックしておきましょう。預託型の給与前払いサービスでは、サービスの提供会社が資金移動業の免許を保有していないと違法である可能性があります。適法なサービスかどうか見極めるには、金融業を行うために必要な免許の有無を確認しておくことが重要です。
登録が必要な免許の有無は、サービスの提供会社のホームページや広告などを見ることで簡単に確認できます。登録を受けている業者であれば、通常、ホームページや広告など登録番号などを表記しています。
資金移動業の登録を受けている場合は「資金移動業者登録番号 〇〇財務局長 第000000号」のような表記がなされています。
また、登録状況は、金融庁のホームページでも確認可能です。資金移動業や貸金業というような免許の保有業者の一覧が掲載されており、その一覧に業者が載っていれば免許を保有していることがわかります。登録番号や登録年月日なども確認可能です。ホームページや広告に登録番号が表記されている場合は、本物かどうか念のため確認しておくとよいでしょう。
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4.2サービス詳細が明確であるか
給与前払いサービスを導入することで、これまで行なっていた給与計算の方法が変わることになります。サービスの提供会社に対して、自社の勤怠データの共有なども必要でしょう。給与前払いに伴う事務処理など、どこまでを委託でき、なにを自社内で行うのか把握しておく必要があります。
コストに関しても詳しくチェックしておきましょう。企業負担額や従業員手数料の金額や支払い方法は、前払いサービス提供会社により異なります。また、サービス導入時は実態として貸付になっていないかどうか確認する必要があります。サービスの詳細が明確なら、貸付でないこともわかりやすく、安心できるでしょう。
それに、従業員にとっても明確で使いやすいサービス内容でないと、利用が進まないかもしれません。企業側だけでなく、従業員にとってわかりやすいサービス内容であることも重要です。
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4.3手数料が上限金利を超えていないか
給与前払いサービスは、貸付には該当しないと金融庁が見解を示しています。そのため、手数料が利息として扱われることは通常ありません。しかし、手数料が高すぎると問題視されてしまう可能性があります。サービスの実態によっては、貸付に該当するとされる可能性もゼロではありません。
そのため、万が一手数料を利息とみなされても問題ない金額のところを選ぶのが望ましいでしょう。利息制限法で規定されている上限金利は10万円までなら年利で20%です。1ヶ月あたりで換算すると約1.7%になるため、手数料の金額がそれを超えていないかどうかチェックしておきましょう。
手数料の中にも、事務手数料や振込手数料、ATM手数料などさまざまな種類があります。このうち、チェックしておくべきものは事務手数料です。振込手数料やATM手数料は、利息としての性質はありません。
他の注意点や失敗例も見る▼
給与前払いサービスは、従業員側と企業側の双方から需要があるということで誕生したサービスです。従業員においては現金が必要なときにすぐに手にすることができ、企業においては人手不足解消に役立てることができます。
一方で貸付に見えるという指摘があり、銀行でないのにお金を預かって従業員に支払うことも問題視されることも多くあります。この点に関して、金融庁では実態を考慮したうえで貸付ではないとの見解を示しています。資金移動業者として登録を受けていれば、100万円までの為替取引も可能です。
ただし、全ての業者が法的に問題ないとは言い切れません。給与前払いサービスを導入する際は、登録免許の有無やサービスの内容をよく確認して選ぶことが大切です。