[2021.11.19]
少子高齢化に伴う人手不足を解消するために、外国人の採用を検討している企業も多いのではないでしょうか。直近では「人手不足解消」という目的だけではなく、海外からの優秀な人材を確保しビジネスを成長させる企業も増加しており、「外国人の活力を取り込むことで、自社の業績を伸ばす」という前向きな姿勢で外国人材の採用活動が必要とされております。
外国人材は、日本と異なる文化的バックグラウンド(言語、宗教、習慣など)を有し、日本の法制度に詳しくないという事情もあるため、コミュニケーションや雇用手続き、銀行口座開設について、きめ細やかな対応が必要です。優秀な人材を確保し、定着させるためには、福利厚生や補助の充実、キャリアアップできる環境の整備も求められます。また、外国人材を採用する際には、就労資格を確認し、不法就労者に注意しなければなりません。
本記事では、外国人材の活用を検討している企業の人事担当者に向けて、採用に関するノウハウ・ナレッジを提供します。
リーマン・ショックや東日本大震災が発生した直後は、日本に在留する外国人総数が減少したものの、2012年以降は、日本国内でさまざまな仕事に携わる外国人が順調に増加してきました。
厚生労働省が2019年2月に作成した資料によると、日本国内で就労する外国人の総数は約146万人です。
特に2015年以降は、ベトナム人を筆頭にさまざまな国籍の労働者が急激に増えており、企業による採用ニーズの高まりが伺えます。ちなみに、2018年10月末時点における外国人雇用事務所数は216,348か所であり、2014年以降は毎年約2万事業所のペースで増加中です。
このような外国人労働者の急速な増加の背景には、深刻化する少子高齢化を原因とした「人手不足」があります。日本政府は、従来の「専門的・技術的分野における外国人材」に限定せず、「一定の専門性・技能を有し、即戦力となる外国人材」を幅広く受け入れる方向に舵を切っているため、更なる外国人材の増加が予想されます。
参考:厚生労働省職業安定局外国人雇用対策課「外国人労働者を巡る最近の動向と施策について」
外国人を採用するメリットは、「人手不足の解消」「優秀な人材確保」「海外ビジネスでの活躍」の3つです。以下、それぞれについて詳しく説明していきます。
日本における生産年齢人口は1995年、総人口は2008年を頂点として減少に転じ、少子化に歯止めがかかりません。このような社会状況の中で、多くの企業が人材確保に苦労しているのではないでしょうか。
ITの活用は、人手不足を解消するための一つの手段です。しかし、世の中のあらゆる仕事がITで解決できるわけではありません。介護現場など、人間が作業しなければならない仕事も依然として数多く残っています。そのような業種・業態の場合は、人手不足を解消する選択肢として、外国人材の活用をご検討ください。
参考:総務省「情報通信白書平成29年版 第1部 特集 データ主導経済と社会変革」
IoTによる遠隔制御、機械学習によるビッグデータの活用、AIによる自動運転など、「第4次産業革命」と形容される技術革新・社会変容が進行中です。最先端技術を使った商品・サービスを開発し、イノベーションを創出するためには、国内だけではなく、海外からも優秀な人材を確保しなければなりません。
日本政府は、高度外国人材の活躍推進に向けてさまざまな施策を講じています。例えば、経済産業省所管の独立行政法人であるJETRO(日本貿易振興機構)では、「高度外国人材活躍推進ポータル」において外国人材の採用に役立つ情報をまとめています。また、専門コーディネーターによる伴走型支援も提供されているので、アドバイスを受けてみてはいかがでしょうか。
そのほか、文部科学省の「留学生就職促進プログラム」において、工業高専や大学・大学院を卒業・修了する外国人留学生と企業とをマッチングする場が提供されています。このような施策を活用しながら優秀な外国人材を確保し、自社の競争力を強化しましょう。
参考:独立行政法人日本貿易振興機構「高度外国人材活躍推進ポータル」
文部科学省高等教育局学生・留学生課「外国人留学生の就職促進について」
少子高齢化によって人口が減少する日本は、次第に需要が縮小していくと予想されます。海外はマーケットの規模が年々大きくなっているため、グローバルにビジネスを展開すれば、日本国内のみで勝負するよりも多くの利益を上げることが可能です。
ただし、海外展開は、日本国内におけるビジネスの延長と考えるべきではありません。国内市場で成功した商品・サービスであっても、現地のニーズに合わなければ失敗します。
海外ビジネスで成功するためには、外国人材の活用が必要です。外国人材は、母国語と英語、そして、日本語の3か国語を使いこなせたり、現地のマーケット情報にも精通していたりするため、事業の海外展開にも貢献し、各国のニーズに合った商品やサービスを開発・提供しやすくなるでしょう。
外国人採用における課題は、「コミュニケーション」「雇用手続き」「銀行口座開設」の3つです。以下、各課題について詳しく説明していきます。
外国人材は千差万別であり、日本語が得意な者も不得意な者も存在します。日本語能力が低い人材の場合、契約書に記載されている内容を理解できなかったり、日本人スタッフとの意思疎通が上手くいかなかったりするケースも見受けられます。誤解が原因でトラブルが起こることがないように、さまざまな対策を講じなければなりません。
外国人材とのコミュニケーションを円滑にする具体例を以下に示します。
・文書(契約書など)を外国語に翻訳する
・難しい単語を使わずに、分かりやすい日本語で作業マニュアルを作成する
・漢字に「ふりがな」を付ける
・外国語・外国文化に精通した人員を配置し、外国人材をサポートさせる
なお、単身で日本に来た外国人材は、頼れる家族や友人・知人が近くにいません。仕事のことだけではなく日常生活の悩みについても気軽に相談できる環境を整備し、信頼関係を築いてください。
筆記試験・面接などの選考を終えて採用者を決定したら、雇用手続きを進めることになりますが、外国人材に対しては、日本語と母国語(または英語)の計2通の書面(雇用契約書や就業規則など)を用意するほうが良いでしょう。
なお、労働施策総合推進法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)によって、特別永住者以外の外国人を雇い入れた場合は、翌月の10日までに公共職業安定所に対して外国人雇用状況の届出をすることが事業主に義務付けられています。届出事項は、以下の通りです。
・氏名
・在留資格
・在留期間
・生年月日
・性別
・国籍・地域
・資格外活動許可の有無
・雇入れ年月日
・雇入れに係る事業所の名称、所在地
・在留カード番号
外国人が離職する際にも届出をしなければなりません。日本人(および特別永住者)を雇用した際には存在しない手続きなので、忘れないようにご注意ください。
参考:e-Gov法令検索「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」
厚生労働省「外国人材の雇用管理について」
厚生労働省「外国人を雇用する事業主の方へ」
外国人であっても、一定の条件(在留カード・社員証の提示など)を満たせば銀行口座を開設できます。多くの銀行では在留期間満了日が口座開設申込日から「6か月」よりも先であることを求められますが、ゆうちょ銀行の場合は「3か月」よりも先であれば開設可能です。
ただし、銀行口座を開設する際には「利用目的」を選択させられたり、「反社会的勢力ではないことの表明・確約」を求められたりします。日常的に使用しない難解な単語で書かれた文章ですが、しっかりと内容を理解してサインしなければなりません。来日したばかりの外国人にとっては難しい手続きといえるので、日本人社員が同行してサポートするほうが良いでしょう。
なお、給与前払いサービスの「ジョブペイ」は、専用カードを使用して全国10万台以上のATMから現金を引き出せる仕組みになっています。導入すれば、銀行口座を開設していない外国人の従業員に対しても賃金を支払えるようになります。
また従業員にとっても、自由なタイミングでその時点までに働いた分の給与を受け取れるので、給料日前に現金が必要になった場合に便利です。企業側と従業員側の双方にとってメリットがあるサービスなので、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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優秀な外国人材を確保するために必要なことは、「福利厚生や補助の充実」「キャリアアップできる環境づくり」の2点です。それぞれについて説明していきます。
優秀な外国人材を採用したり、早期離職を防いだりするためには、福利厚生の充実が欠かせません。なお、福利厚生制度を設計する際には、「中国人の場合は春節(旧正月)の時期に故郷に帰省する慣習があるので、その時期に長期休暇取得を認める」など、日本人とは異なる文化に配慮しましょう。
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また、日本語でスムーズに意思疎通できるようになれば、日本人従業員と外国人従業員との心理的距離が小さくなるので、「日本語能力試験の受験料や参考書代を補助する」といった仕組みも整備すべきです。
そのほか、外国人の場合、給与を母国に送金するケースも見受けられます。資金決済業者のほうが銀行よりも海外送金手数料が安い傾向があるので、福利厚生の一環として海外送金に対応している資金決済業者のサービスを使って給与を支払うこともご検討ください。
キャリアパスの明確化や人事考課の見直しも必要です。一般的に外国人は日本人に比べてキャリアアップ志向が強いため、将来を見据えたキャリアプランをしっかりと提示し、それに沿って研修や配属を実施する社内システムを構築しなければなりません。
なお、多くの日本企業はメンバーシップ型雇用であり、「入社後に複数の部門をローテーションさせ、ゆっくりと人材を育成していく」という傾向が見受けられます。しかし、外国企業の多くはジョブ型雇用であり、同じ部門の中で専門性を高めていく文化なので、入社後に企業文化の違いを知って、理想と現実のギャップに苦しむことになるかもしれません。そのようなことがないように、採用の際に文化・制度をしっかりと説明しておきましょう。
ちなみに、「1つの会社に定年まで勤務し続ける」という外国人は相対的に少ないため、「この会社にいても出世できない」と感じたら、条件の良い企業に転職する可能性があります。人材流出を防止するために、上司となる日本人社員の意識改革や、外国人材を適切に評価できる仕組みの整備を行ってください。
外国人を採用する際は就労資格を確認し、不法就労者に気を付けましょう。以下、詳しく説明していきます。
外国人を雇い入れる際は、就労資格を確認しなければなりません。外国人の就労資格は、入管法(出入国管理及び難民認定法)によって、次の3種類に大別されています。
・在留資格に定められた範囲で就労が認められる:外交、公用、教授、芸術、宗教、報道、投資・経営、法律・会計業務、医療、研究、教育、技術、人文知識・国際業務、企業内転勤、興行、技能、技能実習、特定活動
・原則として就労不可:文化活動、短期滞在、留学、研修、家族滞在
・就労活動に制限なし:永住者、日本人の配偶者など、永住者の配偶者など、定住者
なお、「留学」や「家族滞在」の在留資格の場合、資格外活動の許可を受ければ就労することが可能ですが、就労時間の上限がある点にご注意ください。
厚生労働省「外国人の方を雇い入れる際には、就労が認められるかどうかを確認してください。」
「不法入国した外国人」「在留期間を超えて日本国内にいる外国人」が収入を得ることは不法就労とみなされます。また、認められた在留資格以外の仕事に就いた場合も不法就労に該当するので注意しましょう。
なお、不法就労者を雇用した事業主は、不法就労助長罪に問われます。「3年以下の懲役」もしくは「300万円以下の罰金」(または、その両方)を科される可能性があるので、採用時に在留資格の確認をしっかりと実施しなければなりません。
人手不足が深刻化する中、外国人材は企業にとって必要不可欠な存在になりつつあります。優秀な外国人材を確保し、長く働いてもらうためには、日本人上司の意識や社内の制度・仕組みを外国人に配慮したものに変えなければなりません。なお、不法就労者を雇用すると刑事罰に問われる可能性があるので、採用前に就労資格の確認を厳格に行いましょう。