[2021.05.17]
2021年1月に、政府が「2021年の春からデジタル給与支払いを解禁する」という方針を発表しました。まだ詳細が不確実な状況ですが、正式にデジタル給与が解禁されると社会生活に大きな変化をもたらすことは間違いありません。
ちなみに、デジタルマネーによる給与支払いは身近な問題である「生活費の節約」にも役立ちます。これまでは銀行口座に振り込まれた給与を目的別に別口座に振り分ける方法が一般的な節約術として用いられてきました。しかし、作業に時間・労力が必要です。
電子マネーやプリペイドカード、スマートフォン決済サービスなどの残高に付与する形で給与が支払われることになれば、銀行のATMに並んで出入金に時間や労力を費やさずに済むことが予想されます。そこで本記事では、デジタル給与払いについての詳細と解禁された後の節約法について解説します。
これまで、受け取った給与を複数の口座に振り分けて管理する「給与振り分け法」が生活費節約の手段として使われることがありました。給与振り分け法を用いて、銀行口座を「収入用の口座」「貯蓄用の口座」「支出用の口座」の3つに分けて管理することで、お金の流れを可視化し、使い過ぎを防止していました。
給与振り分け法を用いて節約するためには、給与が振り込まれる「収入用の口座」からお金を引き出したら、すぐに「支出用の口座」に水道光熱費や通信費、住宅ローン、クレジットカードの支払いなどに必要となる金額を入金することが大切です。そして、教育費や修繕費、老後資金の積立費用などを「貯蓄用の口座」に入金した後、手元に残ったお金が食費や日用品費などになるという流れです。
このように給与を3つの口座に振り分ければ、使い道が明確化され、家計簿に記録しやすくなり、生活費の節約につながります。なお、目的別口座を作成する機能が提供されているネット銀行を利用している場合は、より細かく振り分けることも可能です。
しかし、毎月銀行のATMに並んで、お金の引き出しや預け入れをする作業を面倒に感じる方も多いのではないでしょうか。特に、収入元が複数ある方は、振り分け作業に多大な時間や労力が必要となります。
デジタルマネーによる給与支払いが解禁されると、貯蓄の管理や節約がより楽になるでしょう。以下、デジタル給与の概要、およびデジタル給与支払い解禁に関する最新情報を説明していきます。
2.1デジタル給与について
デジタル給与とは、現金ではなくデジタルマネーで支払われる給与のことです。デジタルマネーとは、電子マネーやプリペイドカード、スマートフォン決済サービスなどの電磁的情報による支払い手段を指します。
なお、デジタル給与解禁に合わせて、プリペイドカードの一種で給与振り込み用のカードである「ペイロールカード」の導入も想定されています。資金移動業者が発行するペイロールカードで、銀行口座を介さずに直接給与を受け取ることが可能です。
また、ペイロールカードは買い物の支払いに使える機能が付与されることも予想されています。「スマートフォンが壊れたり、大規模災害でネットワークが停止したりする状況に備えて、ある程度の現金を持ち歩きたい」という方もいるかもしれませんが、ペイロールカードの残高はATMから現金として引き出すことができます。
ペイロールカードが導入されると、従業員側としては銀行口座の開設が必要なくなり、そのまま電子決済が可能になるため利便性が向上します。また、企業側としても福利厚生の一種としてペイロールカードを導入することで多様な人材を獲得することにつながり、離職率の低下も見込めます。デジタル給与支払い解禁は従業員にとっても企業にとってもメリットがあるといえるでしょう。
2.2 2021年春に正式実装予定?
「2021年春に給与のデジタル払いを解禁する」という方向で、厚生労働省の審議会で議論が活発に交わされています。以下、議論されている内容をご紹介します。なお、現時点(2021年3月初頭)では詳細が完全に決まっていないため、変更される可能性もあるという点にご留意ください。
2021年1月28日に開催された「労働政策審議会労働条件分科会」の資料によると、給与のデジタル払い解禁に伴って導入されるペイロールカードについて、次のような意見が委員から出されました。
・安全性(不正利用の防止策)、資産保全、補償は、銀行口座と同等の水準が求められる
・従業員に対して銀行振込との違いを説明し、同意を得る必要がある
これらの意見を踏まえて、分科会事務局は「資産保全(現在の資金決済法の仕組みでは、資金移動業者が破綻した際の手続きに時間がかかる)」「不正引き出しへの対応」「換金性(現金として引き出せること)」「労働者の同意」などを課題として挙げています。
なお、給与のデジタル払いやペイロールカードの導入には、法改正が必要です。具体的には「労働基準法第24条」を改正し、「賃金の通貨払いの原則」の例外として「デジタルマネーによる支払い」を認めるようにしなければなりません。また資金決済法を改正し、「資金移動業者が破綻した場合でも、迅速に労働者に給与が支払われる仕組み」を構築することも不可欠です。
まだ明確になっていない部分もありますが、2020年7月に「できるだけ早期の制度化を図る」と閣議決定されたという経緯もあるので、厚生労働省などにおける議論の経過を見守りましょう。
デジタル給与は、「給与管理が効率化できる」「電子決済で便利」というようなメリットがあります。それぞれについて、詳しく説明していきます。
3.1給与管理が効率化できる
給与をデジタルマネーとして受け取れば、さまざまなキャッシュレス決済サービスの残高に簡単に振り分けることが可能になります。
「銀行口座への振り込みによって給与を受け取る」という仕組みにおいて、家計の管理をする場合、ATMで現金を引き出して「収入用の口座」「貯蓄用の口座」「支出用の口座」というような目的別の口座に入金する作業が必要な場合もあるでしょう。
デジタルマネーやペイロールカードの残高に給与が入金されるようになれば、銀行のATMの前に並ぶ必要がなくなります。ペイロールカードの場合、オンライン上で操作するだけで各種決済サービスの残高として振り分けることができようになり、時間や労力を大幅に減らすことができるでしょう。
また、ペイロールカードは、そのまま買い物の支払いにも利用できます。別の決済手段に振り分けなくても、スーパーやコンビニエンスストアのレジで使えるので便利です。ペイロールカードや各種決済サービスの残高を「家計簿アプリ」に紐付ければ、自動的に家計の管理を行えます。
3.2電子決済で便利
デジタル給与が解禁されることで、これまでも利用されてきた電子決済がさらに便利になります。
これまでは、電子決済といえば、銀行口座やクレジットカードに紐づけたり、現金や口座入金でマネーチャージを行ったたりなど、利用するまでに手続きや設定が必要なケースがほとんどでした。デジタル給与では、ペイロールカードに入金されたキャッシュをそのまま決済に利用することができるため、今よりもさらに便利に電子決済が利用できるようになります。
2021年3月現在、「マイナポイント事業」が実施されていますが(マイナンバーカード交付申請は2021年3月末まで、ポイント付与は2021年9月末まで)、これらの施策が講じられていても、依然として諸外国と比較すると現金決済の比率が高い状態が続いています。
今後は、デジタル給与の解禁によりキャッシュレス比率が上がることも期待できそうです。
ここからは、デジタルマネーで給与を受け取る場合の節約法をご紹介いたします。
4.1目的別に電子マネーへ移し替える
給与をデジタルマネーで受け取ったら、目的別に電子マネーに移し替えましょう。
例えば、「コンビニエンスストアで買い物をするための資金として5,000円をnanacoにチャージ」「スーパーマーケットで食料品や日用品を購入するための資金として30,000円をWAONにチャージ」というような具合に、1ヶ月で使う分をあらかじめ入金しておけば使い過ぎを防止できます。
また、電子マネー以外にプリペイドカードやスマートフォン決済サービスに振り分けることも可能です。それぞれの決済サービスを「娯楽」「食費」というような目的で使い分ければ家計を管理しやすくなり、節約につながります。
4.2家計簿アプリに記録する
スーパー、ドラッグストア、コンビニエンスストアなど、さまざまなお店を毎日のように利用している場合、レシートの枚数が膨大になり、紙とペンで家計簿を作成することが面倒になってしまうかもしれません。
そのような状況で役立つものが、「家計簿アプリ」です。家計簿アプリでは、アカウントアグリゲーション(口座情報の集約機能)により、銀行口座の出入金記録や、クレジットカード、デビットカード、プリペイドカードの利用明細、電子マネーやスマートフォン決済サービスの利用記録が自動的に取り込まれます。
家計簿アプリに各種口座・ウォレットを紐付けておけば残高が一元的に表示され、簡単に収支を管理できるようになります。給与の振込から買い物に至るまで、自分自身で紙に書き写さなくとも、自動的に家計簿が作成されて便利です。無駄遣いを削減したい方には家計簿アプリの利用もおすすめです。
4.3受け取り方を分ける
現在の日本では、デジタルマネーで支払えないものが多数存在します。給与のデジタル払いが解禁されても、家賃や税金などは現金でしか支払えない状況がしばらく続くのではないでしょうか。また、資産運用で投資信託などの積立をしているような場合も、証券口座に入金するために現金を用意しなければなりません。
そのため、給与を受け取る段階から、銀行に振り込まれる分とデジタルマネーとして支払われる分に分け、ある程度の現金をすぐに使える状態にしておくことをおすすめします。
具体的には、家賃や税金などの支払いに必要な金額は銀行振込で受け取るようにしましょう。残りの金額は、電子マネーやプリペイドカード、スマートフォン決済サービスに入金してもらえば、振り分ける手間を省くことが可能です。
2021年1月に、「2021年春に給与のデジタル払いを解禁する」との方針が政府によって示されました。デジタルマネーによる給与支払いが解禁される背景には、「キャッシュレス化社会の実現」という政府の大方針があります。
デジタル給与の解禁に伴い、「ペイロールカード」の導入も想定されています。資金移動業者が提供するペイロールカードの残高に給与が入金されるようになれば、銀行のATMで現金を引き出す必要がなくなり利便性が高まります。
給与がデジタルマネーで支払われるようになれば、労働者は「ATMに並んで、給与の出入金・振り分け作業を行う必要がなくなる」「家計簿アプリとの連携で管理しやすくなり、節約につながる」というような利便性を享受できるようになるでしょう。また、企業にとっても、福利厚生の一環としてデジタル給与払いを導入すれば多様な人材を確保できるようになり、従業員の満足度が高まることで離職率が下がるというようなメリットともなり得ます。
なお、厚生労働省の審議会で議論が続いているため、制度の詳細が完全に決定されているわけではないという点、労働基準法や資金決済法の改正が必要とされている点にもご留意ください。本記事が、デジタル給与解禁後の節約法について知りたい方のお役に立つことができれば幸いです。